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子どものエージェンシー(Agency)を育むために

エージェンシー(Agency)という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。
数年前から日本や世界の教育業界でよく使われるようになった言葉で、国際バカロレアのプライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)とも関連深いものです。
この記事では、エージェンシーとは何かをご紹介し、子どもがエージェンシーを発揮できる豊かな環境を作るためにスクールや家庭でできることは何かを考えていきます。
国際バカロレアにおけるエージェンシーとは「意義のある意図的な行動を起こす力」とし、子ども個人の権利と責任を認め、スクールコミュニティ全員の声、選択、オーナーシップを支援するものだと説明しています。
また、OECD(経済協力開発機構)では、2019年に発表した「OECD Learning Comas(学びの羅針盤)2030」の中で、生徒のエージェンシーは「変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力」として定義づけられています。
では、幼児期の子どものエージェンシーとはどのようなものでしょうか。

実は、私たちは生活の中のありとあらゆる場面で、子どものエージェンシーを目の当たりにしています。ある時は遊びの中で、またある時は朝の支度をする数分の中で、また別の時は1日の終わりにベッドの中でする会話の中でそれは見られます。
子どもたちは、日常の些細な場面(大人には些細だと思える場面)で、好奇心旺盛に探究しているからです。

子どもから溢れ出るエージェンシーに大人が気づくためには、私たち一人ひとりが持っている「子ども観」が関わっています。「幼い子どもはものを知らない、無力な存在」だと大人が考えた場合、子どものエージェンシーに気づくことは難しくなります。
反対に、「子どもは自らの学びの主体であり、世界について独自の理解をすでに持っている」と認識した場合、自らの考え・理論を熱心に研究する子どもの姿が見えてきます。

コップに入った水を流しては入れ、入れては流すことを繰り返したり、聞かれる質問全てにNoと言ってみたり、筆を用意していたにも関わらず、自分の両手でペイントしたりすることは、彼らが学びのエージェントとなって世界の仕組みを理解しようとしている証拠です。

生まれてすぐ、周りの大人と関わりだした瞬間から、子どもは自らの学びの主体として活動し続けています。私たち大人の役割は、幼い子どもが自らの世界に興味をもち、不思議に思い、自分たちの理論を試すためのサポートをすることではないでしょうか。彼らが新しい気づきや発見を経験するために安心できる環境を作り、機会を提供し、子ども生来の好奇心が学びの動機になるよう働きかけることが重要なのです。

アオバジャパン・バイリンガルプリスクールでは、子どもたちに知識を与えることではなく、子どもが自分なりの解釈をしたり、自分のペースで取り組んだりできるような学びの環境を作ることが、教員の重要な役割となります。
そのために教員は日々の生活の中で、子どもたちを注意深く観察し、子どもの興味や関心を知ろうとします。
また、その興味や関心をさらに深めていくような問いを立てて、子どもたちの遊びが彼らを主体にして展開することを後押しします。

当然ながら、子どもの学びはスクールでのみなされるものではありません。ここからは子どものエージェンシーを育むためにご家庭でできることを、国際バカロレアのPYPで、エージェンシーの感覚を身につける重要な概念となる、Voice(声を発し)、Choice(選択を行い)、Ownership(主体性を発揮する)の視点から、いくつかご紹介します。

Voice:
・子どもの声に耳を傾ける(耳で聞くだけではなく、彼らの行動、表情、動きや機嫌にも気づく)
・いろいろな視点からの意見を尊重する
・彼らの理屈や考え、アイデアを受け止める(例えそれが未熟だと思われるときでも)

Choice:
・何かするときに、複数の方法や材料を用意する
・ゴールを決めたり、それについて子どもと一緒に振り返る機会をもつ
・見本を見せたり、やり方を提案したりすることで子どもの意思決定をサポートする

Ownership:
・何を学ぶのかに加えて、なぜ学ぶのかも話し合う
・成功も失敗も学びのプロセスだということを子どもが理解できるようにサポートする
・自信をもつことや自立しようとすることを後押しする
・自らの仮説を試したり、実験したりすることを見守る

ご家庭ですでに実践されていることも多くあるのではないでしょうか。子どもとの関わり方のヒントになればと思います。

エージェンシーについて私が最も重要だと思うことは、大人である自分自身がエージェンシーについて理解し、エージェンシーを発揮しているかを振り返ることです。

子どもたちは大人の姿を見て育ちます。大人が発揮するエージェンシーを見て、自身もエージェントとして大きく成長していくことでしょう。

参考:
・国際バカロレア機構「初等教育プログラム(PYP)学習者」, 2018年10月, p. 1
・経済協力開発機構「OECD Learning Compass 2030 仮訳」, 2019年

 

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Written by

Haruko Isobe 複数キャンパスPYPコーディネーター